2020/09/10 17:44
・苔とはどんな植物か
苔はとても身近にある植物で、存在を知らない人はあまりいないと思います。しかし、どのような特徴がある植物かと質問されると、よく分からないという人が多いと思います。このページでは、苔の事をもっと知ってもらえるように起源から生き方などについて紹介していきます。
・苔の起源
苔の先祖はコンブやワカメと同類の藻類と呼ばれる生命体で、もともとは水中で生きていました。やがて進化を遂げ、陸上で生きることが可能になった藻類が苔となりました。苔は約4億年前、最初に陸上に進出した植物と言われています。当時の陸上は、溶岩や氷河の浸食によって形成された土地や岩盤などで構成されていて有機物は存在せず、生物が生きて行くには大変厳しい環境でした。そんな中、苔は雨と空気中に存在する微量の養分のみで見事に生き抜き、さらに繁栄しました。苔は高等植物が持つ様々な機能を持ち合せておらず極めて原始的でシンプルな構造をしています。根から養分や水分は吸収せず、葉の細胞に直接水分を取り込み光合成を行います。また、水分を風や日光に奪われると休眠と呼ばれる仮死状態になります。次の雨が降るまで仮死状態を維持することができるので、枯れてしまうことがありません。シンプルな構造ゆえに、苔はこのような厳しい環境に適応できたのです。何の生命も存在しない環境に最初に進出することを「一次遷移」といいます。苔が一次遷移を担い、長い年月をかけて繁栄するにつれて、徐々に有機物が堆積していきました。それはやがて土壌となり、草や樹木が陸上に出現するきっかけになりました。苔の最初の一歩が陸上で生命が繁栄するきっかけをつくったとも言えます。
苔の種類は非常に多く、世界中で約20,000種類程度が確認されています。南北に長い日本には世界の苔の約10%にあたる約1800種類が確認されています。苔は分類として蘚(せん)類、苔(たい)類、ツノゴケ類の3つに分かれています。蘚類は葉と茎(正しくは茎葉体)がわかれている姿が特徴です。スギゴケやヒノキゴケのように直立する種類もあれば、ハイゴケのように横に這っている種類もあり姿は様々です。世界では約10,000種類確認されています。一般的に庭園や園芸で使用される苔はほとんどが蘚類になります。mosstoが扱っている苔も全てこの蘚類に属します。苔類は葉と茎の区別がなく地面に張り付くように生えている姿が特徴です。ゼニゴケやジャゴケが代表的な苔類です。世界では約8,000種類確認されています。一般的に家屋の北側で日が当らなく湿った場所に生えています。感性にもよりますが、一般的には綺麗で観賞向けの苔とは見られず駆除の対象になってしまうような存在です。ツノゴケ類は蘚類と苔類と比べて種類が少なく世界でも400種類程度しか確認されていません。ツノゴケ類の姿は苔類と似ているので見分けることが難しいです。しかし胞子体がツノ状である特徴があるので繁殖期には苔類と見分けがつくかもしれません。またツノゴケ類は一般的にシアノバクテリア(藻の仲間)と共生していることが蘚類と苔類との違いです。
苔の受精は水の助けがなければ成立しません。雄株から放出された精子は水を伝って雌株に運ばれ受精します。しかし、精子が雌株に辿りつける確立はとても低いのです。なぜならば、雄株と雌株が水路によって繋がっていなければ受精のチャンスがないのです。また雌株が精子を誘導するような機能も持ち合せていないので、精子は闇雲に泳ぎ回るしかないのです。
②胞子体の発達
運よく雌株に辿りついた精子は雌株の内部に大切に護られている卵子と受精します。やがて次世代の最初の細胞となる胞子体の中に沢山の胞子をつくります。
③胞子の放出
胞子体の中で大切に育てられた胞子はやがて放出され、風に乗って新天地を目指します。あくまで風任せなのでほとんどの胞子は生育に適さない場所に落ちてしまいます。運よく適度な湿度がある場所に行きついた胞子だけが生命を繋いでいきます。
④原子体の発生
生育に適した場所に行き着いた胞子はフィラメント状の藻に似た原子体という緑色の糸を湿った地面に広げて行きます。おおよそこの段階ではこれが苔だとは誰も思えない形です。
⑤成長
原子体の芽から葉のついた茎が立ち上がり、私たちの知っている苔の形に成長していきます。
苔の子孫の残し方については2種類あります。一つは「苔の一生」でも説明しました胞子で増える有性生殖です。もう一つは苔の体の一部が千切れ、湿った土の上に落ちるとその体の一部から新しい芽を成長させる無性生殖です。(園芸用の苔を育てる際にはこの無性生殖の働きを利用して増やします)では、苔はどのように有性生殖と無性生殖を使い分けているのでしょうか。あまり知られていない苔の知的な戦略をご紹介します。苔は密集度が低い間は優先的に無性生殖を選択し、群落(コロニー)の形成、縄張りの拡大に集中します。やがて無性生殖の効果が表れてくると苔の密集度があがり、乾燥や風などの厳しい環境に対しての耐性があがります。しかし、密集度が一定以上になると新しい芽が生えるスペースが無くなってしまい無性生殖ではうまく子孫を増やせなくなってきます。そうすると苔は、新天地を求める為に有性生殖活動を開始します。胞子は風に乗って親元から旅立ちます。このように苔は子孫を次世代に残す為に、戦略的に有性性生殖と無性生殖を使い分けています。
有性生殖
メリット:雄株と雌株の遺伝的な交わりが起こるので様々な環境に適応できる可能性が高まる。
デメリット:ネルギーを使う割に、子孫を残せる確立が極めて低い。
無性生殖
メリット:エネルギーを使わないで効率的に子孫を残すことができる。
デメリット:子孫は親と同じ遺伝子(クローン)を持つので環境の変化が起きた場合全滅する恐れがある。


植物が育つには、水と日光が必要です。その2つを獲得するために、植物は様々な進化を遂げてきました。特に、日光を獲得する手段としてとられた一般的な方法は他の植物よりも高く育つということでした。周りの植物よりも高い場所で葉を広げられれば、優先的に日光を受けることができ、生存競争に勝つことができるからです。しかし、苔は日光を求める為に大きく育つという競争に参加しませんでした。そもそも、苔は原始的な植物で樹木のように大きくなる為に必要な維管束組織や木質組織を持ち合せていない植物なのです。そこで苔は大きく2つの戦略をもって対抗してきました。1つ目は、弱い光でも成長するということです。苔が住む森には、樹木の葉で天蓋をされているので直射日光は望めません。そこで苔は樹木を通過して届く光の波長を吸収し成長できるように、葉緑素を特別なカタチにデザインすることで対応しました。2つ目は、他の植物が敬遠する場所に住むということです。平らで肥沃な場所は他の植物との競争が激しいので、苔は競争をしなくて済む場所を住みかとしてきました。それは、岩や断崖、樹皮や倒木などです。苔は根から養分を吸収する必要がない植物なので、このような栄養がない場所でも生きて行くことが可能なのです。このような戦略をもって苔は今日までの4億年という長い年月を生き抜いてきました。
