2023/02/08 16:32
今回は、苔庭を造ることをお考えの方に向けて基本的な考え方をお伝え出来ればと思います。
苔は環境に慣れてしまえばとても強い反面、環境に合わない苔を施工するとあっという間に枯れてしまいます。「苔は難しい」というイメージがあるのも、この環境と苔のマッチングを蔑ろにしている部分が大半であると思います。しかしながら、このマッチングが実は単純ではなく地域の環境、建物との関係等を考慮する必要があるのでポイントについて見ていこうと思います。
・地域環境について(マクロ的な視点)
一般的に苔の植栽に向いている地域は空中湿度が高いところに集中しています。非常に乱暴な分け方をすると一般的に日本海側は湿度が高く、太平洋側は湿度が低い傾向になります。日本の中心には北アルプスや南アルプスといった山脈が走っているため、湿った空気がこの山脈で抜けて太平洋側には乾いた空気が流れ込みます。山脈の太平洋側の様々な地域で「〇〇おろし」という、からっ風が吹きますがこの湿度が抜けた空気を苔は最も嫌います。もう少しミクロな視点で環境を見ると、太平洋側であっても富士山周辺等水資源が多い地域は、湿度が高い傾向にあります。こういった場所は局地的に点在するので、苔庭を計画されている地域にどのような苔が自生しているかをよく観察し、土地のもつポテンシャルを見極めてみてください。

(富士山周辺の空中湿度が高い環境)
・建物との関係について
先述した地域特性について理解しましたら次は、建物との関係について検討したいと思います。ここでの検討事項については風の当たり方(抜け方)と日射の2点となります。風は苔の水分を奪う要因となります。苔を植えたい場所が建物で風よけになっている場合は理想的な環境だと言えます。逆に風の通り道など風のあたりが強い場所の場合は風よけ等の施策を検討する必要があります。
日射については苔の種類によって好適な量はそれぞれ異なりますが、西日は総じて苦手です。理想としては東向きで午前中くらい日が当たり午後は日陰になるような環境ですが、そういった環境ばかりではないと思います。その場合は、日射に強い苔をメインに検討することで対応が可能です。
日射についてもう一点気を付けなければならない点が窓の反射熱になります。私は苔の生産者になる前にスナゴケを使った屋上緑化メーカーにて開発を行っていました。とある現場で窓から1mくらいの距離が全体的に枯れる事象が発生しました。当初はなぜ苔が枯れたかが分かりませんでしたが、観察していると南面に向いた窓が日光を反射してとても高温になることが分かりました。このことから、窓の反射熱が懸念される範囲には苔を植えない方が賢明です。
屋上緑化メーカー在籍時に日射についてもう一点実験した点についてお話しようと思います。沖縄の屋上でスナゴケの生育実験を行ったことがあるのですが、あっという間に枯れてしまいました。気温の面では健全に育っている東京と比較しても大差はないので紫外線の影響が大きかったのだと思います。赤道に近づくか標高が上がるかのどちらかで紫外線は強くなりますが、沖縄などを除けばそれほど気にする必要はないと思います。
・土壌について
苔は根がない植物なので、土壌については別段配慮する点はないのですが水はけの悪い粘土質のような場合は水はけの改良を事前に検討してください。築山の端部なども水が溜まりやすいので気を付ける必要があります。
以上が苔庭をつくる前に検討すべき大まかな要件になります。